今年行われた第一回目の大学入学共通テスト(英語)で、去年までのセンターテストでは出題されなかった「事実と意見を区別する問題」が出題されました。
事実と意見を区別する事はクリティカルシンキングやロジカルシンキングの基礎スキルとなります。
私は以前、思考力を測るテスト(英語)を作問していたのですが、事実か意見かの見極めは問題を作成する際にも、問題を解く際にも重要でした。
1つ前の記事に、事実と意見の違いについて、事実と意見を見分ける訓練について書きました。
先日、初めての「大学入学共通テスト」が行われました。 英語(リーディング)に関しては、去年までセンタ […]…
事実と意見を区別する問題は、思考力が求められるよい問題ですが、今回の共通テストで出題された問題はあまりよい問題とは思えません。
「意見」であるべき文が、「事実」として認識されている箇所がありました。
今回の記事では、実際に出題された共通テストの問題を見ながら、私が考える「間違い」を指摘したいと思います。
事実と意見の違い
1つ前の記事にも書きましたが、まず事実と意見の違いについて説明します。
事実 (fact):
- 観察や調査によって、客観的に真実だと証明できるもの
- 実際に起こったこと
- 普遍的
- ディベートの対象とならない
意見 (opinion):
- ある人の何かに対する判断、意見、信条
- 推論や個人の見解によってもたらされる主観的なもの。
- 人によって変わる
- ディベートの対象となる
Fact vs Opinion Resource by Lakehead University を参考にしました。
Safety in the city has decreased
最初は第2問Bの問4(14)を分析します。
第2問のBは生徒と先生のオンラインフォーラムでのやりとりを読んで設問に答える形式です。
問4(14)の設問と選択肢は以下の通り。
Dr Berger is basing his new policy on the fact that
① going home early is important
② safety in the city has decreased
③ the school has to save electricity
④ the students need protection
①〜④の中から事実(fact)選ぶ問題です。
事実か意見(fact or opinion)かの見極めは、長文(今回の場合はオンラインフォーラムでのやりとり)を読まなくても分かります。
(ただし、その事実が真か偽かは長文を読まないと判断できません。)
答えは②となっています。
キーポイントとなるワードをハイライトしました。
②以外を見てみると、
①の「important」、③の「has to」 ④の「need」が主観的な表現となっており、この3つは意見(opinion)だということがわかります。
4つの選択肢の中で②が一番事実っぽいですが、私は②も「意見」だと思います。
というのは、何を持って「safety」と言えるかがはっきりしないからです。
本文を読んでみると、次のように書いてあります。
The report showed that our city has become less safe due to a 5% increase in serious crimes.
(The repot=A 2019 police report)
警察の報告書が、「重大犯罪の数が5%増えたため、私たちの街は以前より安全ではなくなった」と示しているとのことです。
ここで、気をつけないといけないのは、「重大犯罪の数が5%増えた」ことは事実ですが、「以前より安全ではなくなった」の部分は、事実をもとにした警察署の解釈、つまり意見なのです。
警察署という権威のある機関が出したレポートに書かれていることだから、
統計をもとにしているから、
といって事実だとは限りません。
もしかしたら「2019年度は重大犯罪が前年度から5%増えた(例えば20件から21件に増えた)けど、2019年内に、これまで重犯罪を繰り返していた犯人を捕まえた」という事実があるかもしれません。
そうすれば、「2020年はこれまでよりも安全になるだろう」という見方もできるでしょう。
犯罪件数だけでなく、検挙率、警察官の数なども街の「safety」に関係してきます。
よく「世界で一番安全な街ランキング」などがありますが、ああいうランキングは大抵犯罪率などある1つのデータを基に作られています。
作成側は、それだけでは安全性を図れない事を理解しているので、
「私たちは犯罪率だけで安全性が図れるとは思っていません。また今回利用したデータと違う結果を示すデータがある事も理解しています。」
などの注意書きがあります。
事実と意見は文ごとに明確に分かれているわけではなく、今回のように1つの文に事実と意見が混じっており、その境界線が曖昧なケースもあります。
そういう場合は、注意が必要です。
自分達の意見を主張するために、都合の良い事実を引用するメディアも多いので、しっかり事実と意見を区別することが大切です。
All the judges praised Green Forest’s song
次は第2問Aの問3(8)です。
第2問のAはバンドコンテストでの各学校の評価、3人の審査員のコメントを読み取る問題です。
問3(8)の設問と選択肢は以下の通り。
One fact from the judges’ individual comments is that
① all the judges praised Green Forest’s song.
② Green Forest need to practice more
③ Mountain Pear can sing very well
④ Silent Hill have a promising future
①〜④の中から事実(fact)を選ぶ問題です。
キーポイントとなるワードをハイライトしました。
この問題、答えは①です。
①以外を見てみると、②のneed to ③のvery well ④のa promising futureが主観的な表現なので、この3つは意見 (opinion)だということがわかります。
①はどうでしょうか?
英語の動詞には、主観を含む動詞と主観を含まない動詞があります。
「praise」は主観を含む動詞に分類されるので、①は「意見」だと私は思います。
別の視点からも見ていきます。
何をもって「褒める」と判断するかは人それぞれなので「褒める」は意見だと思います。
褒め方は人により違いますよね。
受け取り方も人それぞれ。
褒めたつもりが相手には伝わっていなかったりもしますよね。
本文を見てみると、3人の審査員はそれぞれGreen Forestの歌に対して以下のようなコメントをしています。
Mr Hobbs : I loved Green Forest’s original song. It was amazing.
Ms Leigh: Green Forest performed a fantastic new song, but I think they need to practice more.
Ms Wells : Green Forest have a new song. I love it! I think it could be a big hit.
みな、Green Forestに対して良いことを言っているので「褒めている」とも言えますが、Ms Leighは、「but I think they need to practice more」と続けているので、「褒めている」と感じない人もいるかもしれません。
Ms Wells’ suggestion about originality was agreed on
最後は第2問Aの問3(9)です。
問3(9)の設問と選択肢は次のようになっています。
One opinion from the judges’ comments and shared evaluation is that
① each evaluated band received the same total score
② Ms Wells’ suggestion about originality was agreed on
③ Silent Hill really connected with the audience
④ the judges’ comment determined the rankings
①〜④の中から意見(opinion)選ぶ問題です。
答えは③です。
③が意見ということは明らかなのですが、私は②も「意見」と言えるのではないかと思います。
というのも、先ほどのpraiseと同様に、agreeも主観を含む動詞です。
また、具体的な根拠がありません。
事実の文にする場合は、「賛成する場合に挙手を求めたら、皆手をあげた。」など客観的に証明できる必要があります。
事実を表す言葉 : 注意点
上の例からも分かるように、使用されている言葉を見ることによって、その文が事実を示しているのか、意見を示しているのかを見分けることができます。
ただし、事実を表す言葉を使うことによって、意見があたかも事実のように提示されることもあるので注意が必要です。
例えば、前述した、問4(14)の ② の元となる文をもう一度見てみます。
The report showed that our city has become less safe due to a 5% increase in serious crimes.
ここで使われているshowという単語は事実を表す動詞なので、show以下は事実だと一見思ってしまいます。
でも実際は、先ほど説明したように、意見と事実の両方から成り立っています。
下のサイトの一番最後にも、事実を表す単語を使用しているけれど、事実というにはエビデンスが足りない文の例が載っていますので、参考にしてください。
また、形容詞には事実を表す形容詞(fact adjective)と意見を表す形容詞(opinion adjective)がありますが、事実を表す形容詞の中には、意見となってしまうものもあるので要注意です。
例えば、new, old, young, big, small, largeなどは事実を表す形容詞とされていますが、これらの形容詞が含まれた文は意見となります。
最後に
共通テストの事実と意見の問題について、夫と子供達に意見を聞いたところ、
「英語の試験なんだし、事実と意見をそこまで厳密に理解できなくてもいいんじゃない?」
「他の選択肢が明らかに間違いだと分かるから、最も正解に近い(more likely to be fact / opinion)という意味で選択すれば良いんじゃない?」
などと、言われました。
でも、私は以前、英語の思考力テストの作問の仕事をしていたのでどうしても細かいところが気になってしまいます ^^;
最後に今回の記事で書いたことは私の解釈であり、他にも様々な解釈ができることを理解しています。
<追記>2018年共通テスト試行調査の問題を分析
その後、2018年に行われた試行調査(英語)の事実と意見の問題を解いてみました。
問題はこちらです → ☆☆☆
全部で4問出題されているのですが、全て作成ミスでした・・・。
以下がそれぞれの問題と設問です。
第2問
A
問4(9)
According to the website, one fact (not an opinion) about this recipe is that it is
① highly ranked on the website
② made for vegetarians
③ perfect for taking to parties
④ very delicious
主観的な表現をハイライトしました。
この中で「事実」なのは②です。
意見か事実かは、本文を読む必要はなく、使われている言葉で判断します。
ただし、事実は、その内容が真か偽なのかを本文を読んで確かめる必要があります。
本文を読んだところ、レシピに肉が使われているため、②は正しくありません・・・。
①③④はハイライトした部分が主観的な表現なので「意見」です。
ということは答えは何???
チェックしたら①となっていました・・・。
問5(10)
According to the website, one opinion(not a fact) about this recipe is that
① a parent made this dish many times
② it is easy to cook
③ it is fun to cook with friends
④ the recipe was created by a famous cook
ハイライトした部分が主観的な表現です。
ということで選択肢全てが「意見」となります。
となると、この問題はfact or opinionの問題ではなく、「本文の内容に合っている選択肢を見つけなさい」というture or falseの問題ですね。
本文を読んでみると①と②が内容と一致しています。
でも答えは②。
なぜ?
問題作成者は①を事実と判断しているのかもしれません。
B
問2(12)
Your team will support the debate topic, “Mobile phone use in school should be limited.” In the article, one opinion (not a fact)helpful for your team is that
① it is necessary for students to be focused on studying during class
② students should play with their friends between classes
③ the government will introduce a new rule about phone use at school
④ using mobile phones too long may damage students’ eyes
これも全て意見です。
キーワードをハイライトしました。
①②④は主観的な表現、③は未来を表すので、選択肢は全て「意見」となります。
この問題もfact or opinionではなくtrue or falseの問題になってしまいますね。
本文の内容と一致しているのは②と③。
答えは②なので、作成者はきっと③を事実と判断しているのでしょう。
(willを利用した未来のこと=「意見」です。)
問3(13)
The other team will oppose the debate topic. In the article, one opinion (not a fact) helpful for that team is that
① it is better to teach students how to control their mobile phone use
② students should use their mobile phones for daily communication
③ the cost of storing students’ mobile phones would be too high.
④ the rule will be applied to all students at the country’s primary and middle schools.
この問題も選択肢は全て意見です。
ハイライトした言葉がキーワードです。
本文内容と一致しているのは③と④。
答えは③なので、作成者は④を事実としているのでしょう。
willが使われているので④も意見です。
この試行調査を見てみると、本番の共通テストの問題はまだマシですね。
少しずつ良くなっているということでしょう。
受験生のためにも、今後良い問題が作られるのを願っています。